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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)37号 判決

事実及び理由

一  請求の原因1ないし3の事実については当事者間に争いがない。

二  そこで、審決を取消すべき事由の存否について判断する。

1  取消事由(一)について

原告は、本願考案における構成要件(ハ)、(ホ)及び(ヘ)が第一引用例及び第二引用例から容易に推考しうるものではないとするにあたり、まず、第一引用例及び第二引用例には、前記構成要件(ホ)、(ヘ)を示唆する記載がない旨主張する。

第一引用例(成立に争いのない甲第三号証)に「二個のキヤプスタン及びプレツシヤー・ローラによつて再生は、カセツトを裏返すことなく連続させられる。」との記載があることは当事者間に争いがないところ、右文章中の「二個の」なる文言は、相互の機能的な関係からみてもキヤプスタンとプレツシヤー・ローラの双方に共通に係るものとみるのが自然であり、したがつて、「二個のキヤプスタン及びプレツシヤー・ローラによつて」とは、「二個のキヤプスタン及び二個のプレツシヤー・ローラを用いることによつて」の意味であると解される(少なくとも一個のプレツシヤー・ローラが存在することは当然の前提であるから、単にキヤプスタンが二個必要なことをいう趣旨であるならば「二個のキヤプスタン」とのみいえば足りるところである。)。のみならず、成立に争いのない乙第二号証(昭和四三年一〇月一日日刊工業新聞社発行、「電子技術」一〇月号)、乙第三号証(昭和四三年一一月一二日公告に係る特公昭四三―二六二五三号特許公報)によれば、本願考案の出願前すでにカセツト式テープレコーダにおいて、二個のキヤプスタンと二個のピンチローラ(プレツシヤー・ローラ)(以下「ピンチローラ」とのみいう。)とを用いることによつて、カセツトを裏返すことなく連続して録音及び再生を行うことができるということは周知であつたものと認められる。そうすると、カセツトを裏返すことなく連続して再生を行えるようにするために、二個のキヤプスタンと二個のピンチローラとを用いることは、第一引用例に示されているというべきである。この点について、原告は、第一引用例の前記引用に係る記載は再生について述べたものであつて録音についての記載でないし、乙第二号証には二個のピンチローラをカセツトとの関係でどのように用いるのか、また消去磁気ヘツドをどうするのかについて何らの記載がなく、更に、乙第三号証にも消去磁気ヘツドについての記載がないことを指摘して本願考案の出願当時の周知事項を参酌しても第一引用例が二個のピンチローラを使用することを示すものとは解されない旨主張する。しかしながら、前記認定のごとき本願出願当時の周知技術を参酌すれば、テープの駆動は録音についても再生の場合と同様であると認められ、また二個のピンチローラの使用がカセツトの場合に特に困難であるとみるべき特段の事情もない以上、原告指摘の諸事実も前示認定を妨げるものではない。

更に、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には、カセツト中央の大開口に録音・再生磁気ヘツドが挿入されて、同開口の奥に設けられたヘツドパツドにテープを圧接すると共に、一個のピンチローラがカセツトの底面外側の二個の大開口の一方(テープ面を下側にしてセツトされたカセツトの底面を正面からみて右側)に挿入されてキヤプスタンと共働してテープを駆動させる旨記載されていることが認められる(第八九頁中欄二六行ないし三一行、第1図参照)。なお、キヤプスタンが外側の二個の大開口の各近傍に設けられたカセツトの貫通孔の一つに挿入されるものであることは、前掲甲第三号証により示される第一引用例の第7図に徴して明らかである。

そうすると、第二引用例には、本願考案の構成要件(ハ)が示されていることは明らかであり、かつ、駆動にあたつてカセツトを裏返した場合には、前記のピンチローラは、カセツト自体でいえば底面外側の二個の大開口のうちの他方に挿入されてテープを駆動することになるのはみやすいところである。したがつて、第一引用例において示唆された二個のピンチローラは、少なくともカセツト底面外側の二個の大開口に挿入することが可能であることが直ちに理解できる(左右の小開口の寸法とピンチローラの寸法やキヤプスタンを挿入すべき貫通孔の位置からみて左右の小開口にピンチローラを挿入することは実現困難であり、また中央の大開口の近傍にはキヤプスタン挿入用の貫通孔がないから中央の大開口にピンチローラを挿入することは到底考えられない。)。そして、前掲乙第三号証、成立に争いのない乙第四号証(昭和四三年四月一七日公告の実公昭四三―八六九三号実用新案公報、乙第五号証(昭和四三年四月一九日公告の実公昭四三―八九九八号実用新案公報、)、乙第六号証(昭和四三年四月三〇日公告の実公昭四三―九九三五号実用新案公報)によれば、二個のキヤプスタンと二個のピンチローラとがある場合には、テープの走行方向の切換えに対応してピンチローラの一方又は他方が動作位置に変位するように選択的に切換える機構を設けることは従来普通に行われていたものと認められるから、第一引用例と第二引用例に照らせば、本願考案の構成要件(ホ)及び(ヘ)が示唆されているものというべきである。

なお、審決が第二引用例の記載事項に関し、ピンチローラが三つの大孔のうちの両側の大孔の少なくとも一方に挿入されてテープを走行させるとの記載があると認定した点について、原告はこれを誤認である旨主張するが、右にいう「少なくとも一方」とした意味は必ずしも明瞭とはいえないものの、前記のようにカセツトを裏返した場合をも含めて考えると、第二引用例におけるピンチローラは、カセツト底面両側の大開口の「双方」に挿入されうるものということもできるから、特定のカセツト一面の使用状況を考えたうえで、両大開口の「少なくとも一方」に挿入されると記述することもあながち不合理とはいえず、審決のこの点の認定が実質的に誤認にあたるとみることはできない。

更に、原告は、本願考案における構成要件(ハ)、(ホ)及び(ヘ)をまとめて構成することが当業者にとつて容易になしうることではない旨主張する。

しかしながら、前記認定に係る技術事項に加えて、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(昭和四三年一月一〇日株式会社日本放送出版協会発行「電波科学」一月臨時増刊号)によれば、ピンチローラを諸ヘツドに対して巻取りリール側に設けるのが最も一般的な配置であることが認められ(第五八頁第35図)、また前掲乙第二ないし第六号証により、二個のピンチローラを用いて往復録音再生を行う型式においては、両ピンチローラを諸磁気ヘツドの外側に設けることが本願出願前周知であつたことが認められること、及び録音再生磁気ヘツドはパツドが準備された中央の大開口に挿入されるのが前掲各証拠及び弁論の全趣旨から当然であることなどを総合して考えれば、本願考案における構成要件(ハ)、(ホ)及び(ヘ)をまとめて構成した点も、結局第一引用例及び第二引用例からきわめて容易に想到することができたものというべきである。

この点の原告の主張は理由がない。

2  取消事由(二)について

原告は、本願考案における構成要件(ロ)が第三引用例の記載に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができるとした審決の判断が誤りであると主張する。

成立に争いのない甲第五号証の一・二によれば、第三引用例には、広告頁第一九四頁に「カセツトステレオ」の「オートリバース用ヘツド」として中央に比較的大きい「R-440」と表示された一個の磁気ヘツドとその左右に比較的小さいそれぞれ「AE-300A」、「AE-300B」と表示された二個の磁気ヘツドが記載されていることが認められるところ、中央の磁気ヘツドはテープ当接面に、ごく僅かな間隙をおいて上下に並んだ二個のヘツドコアとみられる長方形部分からなる組を、二組上下に並べて有しており、更に、左右の磁気ヘツドは、テープ当接面が上下に仕切られ、それぞれ下半分又は上半分にコアギヤツプとみられる縦線を有していることが認められ、更に、同広告頁に「カセツトモノラル」、「ステレオヘツド」、「モノラルヘツド」として示された磁気ヘツドには、すべて「R」の表示記号が付されているのに対し、同広告頁にみられる各種の「消去磁気ヘツド」には、「E」、「AE」、もしくは「ME」などの表示記号が付されていることが認められる。そして、前掲乙第一号証の一ないし三によれば、通常、カセツトステレオ用の磁気ヘツドとしては、テープ面の上半分又は下半分に隣接して割当られた二本のトラツク(LチヤンネルとRチヤンネル)に対応して隣接する二個の幅の狭い録音再生磁気ヘツドと、テープ面の上半分又は下半分をカバーする一個の消去磁気ヘツドとが一方向分として不可欠であることが認められ(第三七頁図(d))、「消去」、「録音」及び「再生」に対応する英語として、それぞれ「Erase」、「Record」及び「Reproduce」が用いられることは裁判所に顕著な事実であることなどを考えると、第三引用例に示された前記三個の磁気ヘツドは、中央のものが録音再生磁気ヘツドであり、左右のものが互いに逆方向用の消去磁気ヘツドであることはたやすく理解しうるところである。また、第三引用例にオートリバース用として一括して示された右三個の磁気ヘツドのうち、左右の磁気ヘツドのみを殊更縮小して示したものとみるべき理由はなく、かえつてヘツドコアとみられる部分の寸法を比較すれば、右三個の磁気ヘツドはほぼ同一の縮尺によるものと認められる。右の点に加えて、録音再生磁気ヘツドは、前示第二引用例にみられるごとくヘツドパツドを備えた中央大開口に挿入するのが当然であること、二個のピンチローラは前叙のごとく左右の大開口の一方又は他方に選択的に挿入すべきものであり、また、磁気録音の原理上、消去磁気ヘツドはテープ走行順路上録音再生磁気ヘツドの後方に置かねばならないことを併せ考えると、右三個の磁気ヘツドのうち、中央の録音再生磁気ヘツドはカセツト底面の中央大開口に挿入し、左右の消去磁気ヘツドはカセツト底面の左右の小開口に挿入すべきものであり、かつそうすることができるような形状寸法のものであると認めるのが相当である。この点原告は、ピンチローラ、録音再生磁気ヘツド及び消去磁気ヘツドの挿入位置を切換えることによつてオートリバースを可能にする種々の態様がありうるから、必然的に中央大開口に録音再生磁気ヘツドを、左右の小開口に消去磁気ヘツドを、更に、左右の大開口にピンチローラをそれぞれ挿入する構成になるものではない旨主張する。しかしながら、原告主張のごとき諸態様が理論として可能であるとしても、一般に磁気ヘツドやピンチローラの挿入位置の切換えには種々の困難があることは容易に推測しうるところであり、かつそのような切換えによる往復録音再生が従来普通に行われていたことを認めるに足る証拠もないので、右の原告主張の可能性も前記認定を妨げるものとはならない。

右のとおりであるから、本願考案における構成要件(ロ)に関する審決の判断には、原告主張のような誤りはない。

3  取消事由(三)について

原告は、本願考案における構成要件(ニ)及び(ト)が第二引用例及び第三引用例の記載に基づいてきわめて容易に推考しうることではない旨主張する。

前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、カセツトテープレコーダにおいて録音再生磁気ヘツドと消去磁気ヘツドとを摺動板に取付け、右摺動板を録音再生位置に持ち来たすことによつて各磁気ヘツドを所定のカセツト底面の開口に挿入してテープに当接させ、録音再生動作を可能にすることが記載されていることが認められ、かつこれと同様な摺動板に第三引用例に示されたカセツト用の磁気ヘツドを取付けることはきわめて容易に類推応用できることであるから、本願考案の構成要件(ニ)は、第二引用例及び第三引用例からきわめて容易に想到しうることというべきである。また構成要件(ト)についてみるに、前記認定のごとき第三引用例の各磁気ヘツドを第二引用例にみられる摺動板と同様な摺動板に取付けるからには、摺動板を録音(又は再生)位置に持ち来たすことによつて、一対の小型消去磁気ヘツドがカセツト底面の各小開口に挿入されると共に録音再生磁気ヘツドが中央の大開口に挿入されて各磁気ヘツドのすべてに磁気テープが当接するようにするのは当然のことであり、そして右の状態において録音再生磁気ヘツドと一対の小型消去磁気ヘツドの一方を選択的に動作させて所定走行方向における録音動作を可能にすることも、テープレコーダの操作上当然のことである。なお作動切換器の操作によつて一対のピンチローラのうちの一方を両側の大開口の一方に選択的に挿入させる点は、本願考案における構成要件(ホ)及び(ヘ)から自明のことである。

そうすると、構成要件(ト)は、第二引用例及び第三引用例からきわめて容易に想到しうるものというべきである。この点、原告は、第二引用例及び第三引用例の各記載事項を個々に構成要件(ニ)及び(ト)と対比して各相違点を強調することによつて右の各構成要件についての審決の認定判断が誤りである旨主張するが、第一引用例を前提として前記認定のような第二引用例及び第三引用例の記載内容を総合して考えれば、この点の原告の主張は到底採用することはできない。

右に検討したところから明らかなとおり、審決の判断は、正当であり、原告主張のごとき誤りはない。

三  以上のとおりであるから、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は、失当としてこれを棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案に関する事項は左のとおりである。

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四八年五月一〇日、昭和四四年四月二五日に出願された特願昭四四―三二二一四号を実用新案法第八条第一項の規定に基づき実用新案登録出願に変更するものとして、名称を「カセツト式テープレコーダ」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(昭和四八年実用新案登録願第五五〇七九号)をし、昭和五一年一二月一五日、出願公告(昭和五一年実用新案出願公告第五二三四四号)されたところ、訴外三洋電機株式会社らから登録異議の申立があり、昭和五三年一二月二七日、その登録異議の申立は理由がある旨の決定と共に拒絶査定がされた。

そこで、原告は、昭和五四年四月五日、審判を請求し、昭和五四年審判第三三六〇号事件として審理され、その間昭和五五年七月一日付手続補正書により実用新案登録請求の範囲を全文補正したが、昭和五五年一二月八日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は昭和五六年一月一四日原告に送達された。

2  本願考案の要旨

(イ)  縁辺の長手方向における両側と中央にそれぞれ三個の磁気テープ露出用大孔を形成しこれら大孔のそれぞれ中間に二個の磁気テープ露出用小孔を形成してなる磁気テープカセツトと、

(ロ)  前記小孔の各々の内に挿入できる形状の一対の小型消去磁気ヘツドと、

(ハ)  前記中央の大孔に挿入できる録音・再生磁気ヘツドと、

(ニ)  前記各磁気ヘツドを備えた摺動板と、

(ホ)  前記両側の大孔内に挿入可能な一対のピンチローラと、

(ヘ)  該ピンチローラの一方を選択的に所定位置へ変位させうる作動切換器とをそれぞれ具備し、

(ト)  摺動板を録音(又は再生)位置へ持ち来たすことにより前記一対の小型消去磁気ヘツドを磁気テープカセツトの前記小孔の各々に前記録音・再生磁気ヘツドを前記中央の大孔にそれぞれ挿入させて前記各磁気ヘツドのすべてに磁気テープを当接させ、前記作動切換器の操作によつて一対のピンチローラのうちの一方を前記両側の大孔の一方に選択的に挿入させると共に前記録音・再生磁気ヘツドと前記一対の小型消去磁気ヘツドの一方を選択的に動作させて所定走行方向における録音動作を可能にした

ことを特徴とするカセツト式テープレコーダ(ただし符号(イ)ないし(ト)は、本訴で審理の便宜上原告が付したもの。)。

(別紙図面(一)参照)。

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

図面(一)

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図面(二)1

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